擁壁工事・補修にかかる費用相場は?土地購入前に知っておきたい基礎知識
2025/9/30
擁壁のある土地を購入したり家を建て替えたりする際に、いくらぐらい工事費用がかかるのか不安に感じる方が多いようです。
擁壁工事の費用は、ひび割れ補修などで数十万円程度に収まるケースもあれば、やり直し工事では数百万円から場合によっては1,000万円以上に及ぶこともあります。
相場が読みづらく、立地条件や工法などさまざまな要因で費用が変動するため、予算計画を立てにくいのが実情です。
この記事では、擁壁工事が必要になるケースや費用相場、さらに費用を抑えるためのポイントを整理し、土地購入や建築計画を進める前に知っておきたい基礎知識を分かりやすく解説します。
コラムのポイント
- 土地造成・新築や建て替え・セットバックなど、擁壁工事が必要になるケースを把握しましょう。
- 擁壁の築造工事の費用相場は10万円/㎡~が目安ですが、足場設置や解体・処分費用などがかかり、正確な金額は現地調査をしないと算出できません。
- 擁壁工事の費用負担を抑えるためには、専門家に相談し状況に合わせた提案をしてもらうことが大切です。
Contents
擁壁工事が必要になる場合とは
擁壁は所有者に管理責任が生じ、安全性や法的基準を満たす必要があります。
まずは、どのような場合に擁壁工事が必要になり、費用がかかるのか把握しておきましょう。
高低差のある土地の造成を行う場合
新築や建て替えで土地を造成する際、切土(地盤を削る)や盛土(土を盛る)によって高低差が生じる場合は擁壁の設置工事が必要になります。
特に隣地との境界に2m以上の高低差がある場合は、建築基準法に基づき擁壁の設置が義務付けられています。
ただし、高さ2m未満でも、以下のようなケースでは擁壁の設置工事や補強が必要になることがあります。
- 自治体のがけ条例や宅地造成工事規制区域に該当する場合(例:盛土1m超でも規制対象になる地域がある)
- 地盤が弱く、雨水や地下水の影響で土圧が大きくかかる場合
擁壁の規模や工法によって工事費用が変動するだけでなく、建てられる家の範囲などに影響することもあるため、土地購入前に必ず確認しましょう。
不適格擁壁のある土地で新築や建て替えをする場合
古いブロック塀や石積み擁壁など、現行の基準を満たしていない「既存不適格擁壁」がある土地では、新築や建て替えを行う際にやり直しや補修工事が必要になる可能性があります。
新築や建て替えの建築確認申請では、建物本体だけでなく擁壁も審査対象に含まれます。
高さ2mを超える擁壁は「工作物」として扱われ、建物と同様に確認申請が義務付けられています。
不適格擁壁自体をそのまま使い続けること自体は違法ではありませんが、新築や建て替えをする場合は確認申請が通らないためやり直しや補修工事が必要になるのです。
〈関連コラム〉
擁壁の確認申請が必要な条件|検査済証や劣化などチェックポイントも解説
擁壁のセットバックが必要な場合
建築基準法上の「セットバック」が必要な土地も、擁壁のやり直し工事が必要になる可能性があるため注意が必要です。
前面道路の幅が4m以下の場合は、境界線を後退させて中心線から2mの距離を確保する必要があります。
境界線に擁壁がかかっている場合、撤去工事と再設置が必要になるため大きな負担となります。
セットバックでは擁壁の高さや規模に関わらず対象になる可能性があるため、土地購入前に前面道路の状況までチェックしましょう。
擁壁が劣化・損傷している場合
法基準を満たしている擁壁であっても、築年数が古く劣化・損傷が見られる場合はやり直しや補修を検討すべきです。
仮に豪雨や地震などで擁壁が損壊し、近隣に被害を与えた場合は損害賠償を求められるリスクがあるためです。
また、家を建てた後で擁壁工事をする場合、重機が入らなかったり搬出経路が複雑になったりして、コストが増加する可能性もあります。
擁壁工事の費用相場
擁壁工事で気になるのは、どれくらいの費用がかかるのかという点です。
擁壁の新設ややり直し、補修の2パターンに分けて、費用相場をご紹介します。
擁壁の新設・やり直し
造成工事に伴う擁壁の新設や、古い擁壁のやり直し工事にかかる費用について、いくつかの視点から考えてみましょう。
日本擁壁保証協会によると、擁壁の築造(本体そのものの工事)にかかる費用は1㎡あたり10万円前後と目安が示されています。
ただしこれはあくまで擁壁をつくる材料や工事費用の目安で、実際は足場設置や既存擁壁の撤去・廃棄処理などの費用もかかり、規模・工法・立地などさまざまな要素で変動します。
参照:一般社団法人 日本擁壁保証協会 第14回 やばい擁壁!!工事内容と費用は?【作り替える編】
擁壁工事を対象とした自治体の補助金も参考にしてみましょう。
例えば傾斜地が多い横浜市では、一定の要件を満たす擁壁工事に対し補助金を用意しています。
擁壁の築造工事の場合、工事費の1/2または1㎡あたり103,000円の単価で補助金が計算されます。(限度額は50万円または100万円)
あくまで推測ですが、擁壁の築造工事だけでも1㎡あたり10万円以上の費用がかかる可能性が高いと考えられそうですね。
しかし、自治体によってはさらに補助額が大きい制度を用意しているケースもあります。
自治体/補助金制度 | 補助額の上限 |
東京都港区/がけ・擁壁改修工事等支援事業 | 1,200万円
(土砂災害特別警戒区域内の場合5,000万円) |
東京都新宿区/擁壁及びがけ安全化対策支援事業 | 1,500万円
(土砂災害特別警戒区域内の場合3,500万円) |
東京都北区/擁壁等安全対策支援事業 | ・擁壁工事または改修工事:400万円
・当該擁壁が土砂災害特別警戒区域内で2.0mを超える場合:600万円 ・擁壁が総合評価ランクD又はEに該当するもので、道路等に面する高さ1.5m以上のもの及び2.0mを超えるもの:1,000万円 |
上記は一例ですが、擁壁工事に対し数百万円~1,000万円以上の補助金・助成金を用意している自治体も。
これだけ高額な補助金があることは、擁壁の工事費用が数千万円かかるケースがあることを意味しています。
つまり、擁壁のメーター数と単価で単純計算しただけでは、相場を出すのは難しいということです。
実際は専門家が現地を調査しないと正確な金額は分かりませんので、あくまで相場として考えるようにしましょう。
擁壁の補修
古い擁壁の補修工事の費用相場についても、日本擁壁保証協会のデータを参考にしてみましょう。
- ひび割れ補修:3万円/m~
- 水抜き穴設置工事:3万円/箇所~
- 石積み補強工事:4~10万円/㎡~
参照:一般社団法人 日本擁壁保証協会 第15回 やばい擁壁!!工事内容と費用は?【補修編】
上記のように、工事内容ごとに費用相場の目安が示されています。
ただし、実際は擁壁の状態によって施工内容や費用が変動するため、補修の場合でも正確な金額は現地調査をしないと分かりません。
なぜ擁壁工事の費用相場が広いのか、理由について次の章で見ていきましょう。
擁壁工事の費用を変動させる要素
前述したように、擁壁工事の費用はさまざまな要因で変動します。
例を挙げてみましょう。
要素 | 費用への影響 |
擁壁の高さや規模 | 高さが増すほど鉄筋量や基礎が大きくなり材料・施工量が増えるため費用が上がる。 |
工法の種類 | RC擁壁は耐久性が高いが高額で、間知ブロック積みなどは安価だが傾斜が必要など、工法の選択によって単価が大きく変動する。 |
地盤条件 | 軟弱地盤や地下水が多い土地では地盤改良や排水対策が必要となり、追加費用が発生する可能性がある。 |
重機の搬入可否 | 敷地が狭い、道路が細いなどで重機が入れない場合は人力施工や小型機械を使うため費用が割高になる。 |
周辺環境・道路条件 | 道路占有許可や交通誘導員の配置、隣地との境界調整が必要になると追加費用が発生する。 |
撤去の有無 | 既存の擁壁を解体・撤去する場合、解体費用と産廃処分費がかかる。 |
擁壁は工法によって費用が異なり、規模によっても必要な材料や工事費などが変動します。
また、軟弱地盤や地下水が多い、敷地が狭く重機が使えないなど状況で追加費用がかかるケースも少なくありません。
このように、擁壁工事ではさまざまな追加費用が派生し、負担が大きくなることも多いです。
次の章で、擁壁工事の費用を抑えるポイントについてチェックしていきましょう。
擁壁工事の費用負担を抑えるポイント
状況によって高額になることもある擁壁工事の費用負担を抑えるために、次のようなポイントについてしっかり検討しましょう。
家を建てるときに住宅ローンに組み込む
新築や建て替えと同時に擁壁工事を行う場合は、住宅ローンに組み込むことで費用負担を抑えるのが基本的な考え方です。
擁壁単体の工事だと住宅ローンは使えませんが、家とセットなら対象になり、低い金利で無理のない返済計画を立てやすくなります。
仮に擁壁はそのままで新築や建て替えができる場合でも、将来的にやり直しや補修が必要になる可能性があるなら、家と同時に工事して住宅ローンに組み込んだ方が良いケースもあります。
補助金や助成金を活用する
相場の章でご紹介したような、自治体の補助金や助成金を活用するのも擁壁工事の費用を抑えるポイントです。
損壊や倒壊の危険性がある擁壁は、補助金の対象になるケースが多いです。
自治体によって補助額はさまざまですが、対象要件を満たせば費用負担を抑えることができます。
ただし、補助金を受けるためには制度の理解や自治体との連携も必要になりますので、擁壁工事の実績が豊富な会社に相談しましょう。
専門家に相談する
擁壁工事の費用負担を抑えるためには、擁壁に詳しい専門家に相談し現地調査をしてもらうことも大切です。
擁壁の状況に合わせてさまざまな工法を提案できる専門家に相談することで、費用負担を抑えられる可能性が高くなります。
例えば、古い大谷石の擁壁は既存不適格となるためそのままでは家を建てられません。
しかし、やり直しではなく補修で確認申請を通すことができれば、コストを抑えられる可能性があります。
また、擁壁を新設する、またはやり直す場合でも、家の基礎の一部としてつくりトータルコストを抑える考え方もあります。
ただし、ただ安い工事方法を選ぶと、後にトラブルが発生するケースもあるため注意が必要です。
擁壁や敷地の状況を踏まえて、コストと安全性のバランスが取れた提案ができる専門家に相談することが大切です。
まとめ
擁壁工事の費用相場は広く、工法や既存擁壁の状態、敷地条件などさまざまな要素で変動します。
正確な費用を把握して家づくりの予算オーバーやトラブルを防ぐためには、擁壁工事の実績が豊富な専門家への相談がおすすめです。
私たちCaseIT(ケースイット)は、設計施工会社として東京都・神奈川県を中心に擁壁のある土地での住まいづくりをサポートした実績が多数ございます。
土地選びの段階でのご相談も受け付けておりますので、擁壁のこと、住まいづくりのことなどお気軽にご相談ください。